今回はラモーのやさしい訴えを紹介します!
Rameau, Jean-Philippe
Pièces de clavecin avec une mèthode sur la mècanique des doigts “Les tendres plaintes(Rondeau)”
楽譜はこちらからご覧になれます。
Pièces de clavecin avec une méthode, RCT 2-4 (Rameau, Jean-Philippe) – IMSLP/ペトルッチ楽譜ライブラリー: パブリックドメインの無料楽譜
ラモー
ジャン=フィリップ・ラモー(1683-1764)は、フランスのオルガン奏者、音楽学者、オペラ・バレエ作曲家として知られています。オルガン奏者でありながら、チェンバロ用の曲を多く残したのは、大クープランがクラウザン曲集を出した影響があったのかもしれません。
YouTubeでラモーのオペラについて検索すると、いくつかのビデオ作品が出てきます。演出はかなり現代技術を駆使していて前衛的ですが、音楽は間違いなくバロック音楽のスタイルの曲で、この組み合わせがとても面白いです。 どれも大作ですが、とても見ごたえがあるので、時間のある時に是非ご覧ください!
ラモーは音楽学者として、和音に関する書籍を2つ出しています。ラモーが生まれる30年前に没したデカルトの影響が大きいことが分かっています。ラモーの生まれた時代は、近代科学や近代思想が始まったくらいの時期で、おそらくラモーもその影響を受け、音楽、とりわけ和音について法則性を見つけ、明らかにしたいという熱意が芽生えたのでしょう。
やさしい訴え
ロンド形式
やさしい訴え”Les tendres plaintes(Rondeau)”は、括弧書きでロンドーとあるように、ロンド形式の曲です。ロンド形式はA,B,A,C,Aのように、Aというテーマの間にB,Cと別のエピソードが差し込まれているタイプの音楽です。有名なロンド形式の曲の1つに、ベートーヴェンの悲愴第2楽章があります。
悲愴第2楽章の場合は、テーマが少し変奏されていますが、やさしい訴えの場合は楽譜に書いてあることは同じです。ただ、あるものを経験すると物事の見方、感じ方が変わるように、ロンド形式はエピソードを経てテーマの聞こえ方が変わることがあります。やさしい訴えのテーマが、エピソードを経てどのように感じられるのか、それについて考えるのもとても興味深いと思います。
テーマ
さて、やさしい訴えの聴きどころの1つとして、ロンド形式でテーマと各エピソードの違いがあるのですが、その違いについて、説明します。
まず、テーマの特徴として、テーマの繰り返し方と、メロディ音域の狭さと、かなり控えめな跳躍があります。テーマの繰り返し方について、各テーマは2回繰り返され、2回目は右手パートは同じ位置で同じメロディを演奏しますが、左手パートがオクターブ低い音域で奏でられます。右手と左手が離れると、同じメロディでも曲として厚みが生まれ、曲が急に厚くなることで感動が生まれます。ただ、メロディの音域に着目すると、ド#からラまでの短6度と、かなり狭い音域であり、跳躍(離れた鍵盤(音)への移動)も最大5度(ラ-レ)、上行形に限れば4度が最大です。大きい跳躍を使用すると、曲からエネルギーを感じることができます。近年流行った『うっせぇわ』(Ado)のサビでは1オクターブの跳躍が使われており、非常にエネルギーを感じますよね。仮にこのサビが跳躍なしで同音で歌った場合、それの物足りなさは計り知れないことでしょう。
このことからも、跳躍が控えめであるということは、テーマのエネルギーも控えめになっているということが言えそうです。

第1エピソード
第1エピソードは、テーマと同じような始まり方ですが、6度の下降形の跳躍から始まりさらに寂しい雰囲気になります。メロディもどんどん低い音を使うようになりますが、エピソードの終わりにかけてどんどん高い音へ進んでいきます。そして、この曲の最高音(ド)に達してからエピソードを締めくくります。このように、このエピソードは、控えめなテーマに対して、広い音域で、最高音もドまで使っているということが最大の特徴です。テーマと同じ16小節ですが、音域が広い分、とても感情豊かな部分になっています。前半8小節で暗くなった曲を、残り8小節で最高潮のドに至った時の感動は、このエピソードの最大の聴きどころです。

第2エピソード
テーマと第1エピソードはニ短調と、比較的暗い印象の曲でしたが、第2エピソードはヘ長調で、明るい印象を持ちます。また、第2エピソードも同様に16小節で、前半8小節は楽譜を見ると、あまりメロディに音価の小さい音符(短い音符、8部音符)が使用されておらず、跳躍も最大5度と、控えめな表現であることが想像できます。しかし、後半になると、メロディの動きが活発になり、前半に比べるととても感情的な雰囲気がします。エピソードの最高音はソの音であり、シ↗ソ↘ラというように跳躍を経て最高音を奏でます。第1エピソードの最高音へは、順次進行で到達していたのに対し、第2エピソードは跳躍によって到達していますが、この違いがどのように聞こえるかも是非聴き比べていただきたいところです。

おわりに
やさしい訴えという、この曲になぞらえた小説があるようです。私もいずれ読んでみたいと思います。気になった方は調べてみてください!
やさしい訴えは短い曲ですが、細かく見ていくと、とても工夫された作品であることが分かります。本記事が、この曲をより美味しく味わう一助になることを願っています。